昔の大学のキャンパスは、一般の人が立ち入りにくい雰囲気があったのですが、今はだいぶ入りやすくなりました。それどころか足を運んでもらうために、大学博物館で企画展を開催したり、市民向けのセミナーを開講したり、興味を持ってもらうきっかけをつくるのに力を入れています。今回、見つけた筑波大学の取り組みも、広い意味ではこれらと同じカテゴリに入る取り組みです。でも、視点がちょっと違っていて、こういうアプローチもありかなという気がしました。
以下、朝日新聞デジタルより。
筑波大学内にスーパーとコーヒー店 留学生向けも
筑波大学構内に1日、スーパーのカスミ「筑波大学店」と、サザコーヒー「筑波大学アリアンサ店」がオープンした。構内にスーパーができるのは初めてで、学生に生鮮食品などを安く提供するとともに、留学生向けの輸入食材もそろえた。同大は「近隣住民にも利用してもらい、地域と大学の一体化を図りたい」と期待している。(後略)
コーヒーショップというのは、学内レストランのある大学が増えているので、そこまでめずらしくないのですが、スーパーというのが面白いです。そして、そんなことがニュースになってしまうというのも、ちょっと興味深いです。
学食系はちょっと違うのですが、これをのぞくと大学が地域住民をキャンパスにいざなう取り組みは、すべて大学らしいリソースやサービスを地域に提供することで成り立っています。大学の知に触れられる(公開講座、大学博物館など)とか、学生たちによる催し(大学祭など)とか、それらは大学でなければできないことです。通常、そういうものを提供してこそ、大学に地域の人の足が向くと考えられがちです。私も、基本その考え方がいいと思っています。
でも、今回の筑波大の取り組みは、まったく違う切り口です。学内にスーパーをつくって、地域の人も使えるようにする……。そこに、大学固有の魅力というのはありません。ただただ、便利になる。これって、すごく面白いなぁと思います。これまでのアプローチは、大学や学術的な何かに興味がある人にしか響きませんでした。でも、今回の取り組みなら、大学的なことに興味がなくても、足を運ぶ人がたくさんでてきます。
さらに、もう一つ興味深いところがあって、今回のやり方だと大学を普段使いできる可能性があるわけです。公開講座や大学祭などのイベントものは、それがあるときにしか足を運ぶチャンスがありません。大学博物館や学内レストランも、そう頻繁に行くものではないでしょう。でも、スーパーなら日常的に使う可能性が十分にあります。
趣味や興味の世界にアプローチするのではなくて、地域の生活のなかに大学が入っていこうとする、今回の筑波大の取り組みからそんな印象を受けました。こういう視点で、地域と関係性をつくることって、大学だとあまりないように思います。やっぱり大学には、大学ならではの価値があって、それを生かそうとすると、こういうアプローチにならないからです。そこをあえてはずすというのは、なかなか新鮮です。
もしできるなら、スーパーのなかにほんのちょっと大学らしさを演出できたら、たとえば自校が関わった商品を売るコーナーをつくるとか、そういうことができると大学に興味がなかった層にもじわじわと大学の魅力が伝えられなるのかな、という気がします。でも、何にしろ生活圏のなかに入り込めれば、どうピーアールするのかは、そのあとに考えればいいことです。最初のアプローチとしては、これだけで十分達成しているような気がします。
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