2018/05/12

大学の価値を高める、“教育と研究の拠点”だからできる広報じゃない広報(龍谷大)


前回の京都産業大学の記事に引き続き、今回もユニークなウェブマガジンをご紹介します。今回のものは“産近甲龍”という近畿エリアの準難関私大として京産大とともにグルーピングされている龍谷大学のウェブマガジンです。京産大の取り組みと比べると、インパクトでは負けるかもしれませんが、よくよく見るとこちらの方がとがっているのかな、という気がします。

以下、大学プレスセンターより。

食と農の楽しさを伝えるWEBマガジン 「Mog-lab(もぐらぼ)」本格稼働 -- 龍谷大学 
龍谷大学は、「食と農の楽しさを伝えるWEBマガジン『Mog-lab(もぐらぼ)』」を開設し、この春より本格的な情報発信を始めます。(後略)

読むとけっこうおもしろい「Mog-lab(もぐらぼ)https://mog-lab.com/

龍谷大学が2015年に農学部を開設したこともあり、このウェブマガジンでは「食と農の楽しさを伝える」ことをコンセプトにしています。コンテンツとしては、うまみ研究の第一人者である伏木亨先生のコラムや、さまざまな視点から食の魅力に迫る記事などを定期的に配信。いくつか読んでみたのですが、まったく農学の知識がないうえ、(今のところ)龍谷大学に入学するつもりがない私でも十分に楽しめる内容でした。

ちなみにこれは完璧に余談ですが、伏木先生は「ほとんど0円大学」の記事で紹介した京都大×早稲田大×黄桜による大学発ビール「ホワイトナイル」の開発に深く関わっています。このビールは「多飲量特性」といって、いくら飲んでも飲み飽きないビールをめざしてつくられたのですが、伏木先生は京大でこの研究をしていて、実際に実験をしてホワイトナイルの味を決めた人なのです。

閑話休題。

この龍谷大学の「Mog-lab」ですが、記事が面白いこともさることながら、何より面白いのは「大学の情報発信を目的としてない」サイトだということです。これまで、何度となく大学発のウェブマガジンを紹介してきましたが、切り口や表現方法に工夫はあるにしろ、どれも大学の情報を発信していました。当たり前ですよね、大学広報としてやっているんですから。でも、この「Mog-lab」は違うのです。

思うに、大学は専門とする分野について、研究し人材育成をしますが、それとともにその分野について社会を啓蒙していく拠点でなくてもいけない。龍谷大にはそういう考えがあるのではないでしょうか。

さらに、こういった情報発信は、社会に対してメリットがあるだけでなく、在学生や教職員にとっても大きな意味があるように思います。というのも、個人的な体験とくっつけてしまい恐縮なのですが、私自身「ほとんど0円大学」を運営するようになり、運営する前とは比べものにならないほど、大学の情報に敏感になり、一つひとつの情報の価値を考えるようになりました。

これと同様に「Mog-lab」の運営は、龍谷大にとって「食」と「農」の情報を敏感にとらえる“触覚”になるように思います。そして、この“触覚”は、サイトの運営が盛んになるにつれて、運営に直接関わるスタッフだけでなく、農学部の学生や教職員にも広がっていくのではないかと思うのです。これは入試広報という枠、つまり自校の情報という枠に縛られた情報発信では絶対に起きないことです。

さらに、です。「Mog-lab」が入試広報として意味がないのかというと、そんなことはまったくないと思います。特定の分野の最先端の情報に触れられるのであれば、その分野に興味のある受験生は集まってきます。しかも集まってくるのは“自分が何に興味があるのかを知っている”、質の高い受験生たちです。自校の情報という“釣り針”こそありませんが、サイトを通じて大学名や、大学の姿勢を知ってもらうことはできますし、今の時代、共感さえしてもらえれば情報を調べることは容易です。

入試広報と切り離して純粋に情報を発信することで、その分野に興味のある人とよりスムーズにコミュニケーションがとれるうえ、発信者側も知識や意識を高められる。今までの大学広報にはなかったアプローチ(というか、そもそも広報ですらないかも)ですが、メリットは多分にあります。そして、これは“研究と教育の拠点”であり、価値のキュレーションができる大学だからこそできることであり、ある種、義務なのだと思います。

ウェブマガジンの運営の大変さは骨身にしみてよく知っています。でも、社会に大学のプレゼンスを示すため、よりよい受験生を獲得するため、ここはぜひみんなで苦しみましょう(笑顔)。

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