受験生にとって、志望大学の教育内容というのは、当然、興味のある情報です。しかし、よっぽど特徴のあるプログラムでなければ、どの大学であっても同系等の授業は、けっこう似通って見えてしまいがちなのが実際のところではないでしょうか(とくに座学)。
では、何をもって自校の教育の質を伝えればいいのか。難しい問題ではありますが、一つの手法として、何を学べるか、ではなく、誰に学べるか、にスポットライトを当ててみるというのはアリなように思います。一橋大学の学生が取り組むウェブサイトは、この教員の質を伝えるうえで、よいヒントが含まれているように感じました。
以下、朝日新聞デジタルより。
良書はここで 一橋大生が推薦書のHPを立ち上げ
一橋大3年の山下夏生さん(21)が、同大教授らが推薦する「良書」を数多く載せたウェブページを作った。山下さんは年間200冊を読むという「本の虫」。若者らの読書離れが進んでいるとも言われる中、多くの人にもっと良い本に触れてほしいと考え、作ったという。(後略)
一橋大学の教員が推薦する書籍の紹介サイト「Elel」(エレル) |
記事にある一橋大生の山下さんがつくったサイトは「Elel」(エレル)といい、一橋大の教員たちが推薦する書籍を紹介するサイトです。今回、冒頭で“教員の質”という言葉を使いましたが、これは優れた指導法や面倒見のよさというのもありますが、大学教員にもなるとそれだけではなく、知性面での“懐の深さ”が質をあらわすのに必要になるように思います。
“懐の深さ”というのは、単に自身の専門分野について詳しいだけではいけません。それは当然として、幅広い分野について見識があり、独自の視点を持っていることが求められます。むしろ、この裾野の広さこそ“懐の深さ”を感じるポイントではないかと思うのです。
これまでの取材や自身の学生時代を振り返って感じるのですが、受験生は教員が専門分野に対する深い知識を持っているのは当然だと思っているんですね。しかも、そう思いつつも、その分野についてまだ専門的に学んでいないから、専門性が深くなると、それがどれだけスゴイのかが判断できない。それより、専門という幹のまわりに枝葉がたくさん茂っていることの方が、すごさが伝わってくるように思うのです。
教員と話していると、ふとした瞬間に枝葉の茂りを感じるものの、これを広報で表現するのは至難の業です。でも「Elel」のような取り組みを使えば、こういった伝えにくい魅力も表現できるのではないでしょうか。
もちろん「Elel」は、教員たちの知性面の“懐の深さ”を伝えるためにはじめたサイトではありません。教員たちの書籍紹介のほとんどは、ご自身の専門と深く関わる書籍になります。でも、サイトを見ていると、商学を専門とする教員がナショナリズムの本を紹介していたり、法学の教員が金融系の書籍をすすめていたり、専門とはストレートにはつながらなさそうな書籍が散見できます。こういった書籍は、教員の専門という幹のまわりに生える葉っぱのように思います。
教員は専門家であるとともに、賢者であって欲しい。さらりとハードルの高いことを書きましたが、こういう願望を、受験生も、社会一般の人も、当たり前のように持っています。先日、YAHOO!ニュースの記事に、大学教員のうち専任は半数以下になっていると書かれていました。大学の置かれている状況を考えると、今後、専任の比率が下がることはあっても、上がることはないでしょう。そうなると、これまでよりもさらに教育や教員の質が厳しく問われるようになっていくはずです。専門だけじゃない教員の魅力、そして、すごさ。こんな時勢にこそ本腰をいれて伝えるべき情報なのかなという気がします。
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