人文系の学部や知識人たちが中心となって、リベラル・アーツの大切さを折に触れて学生や社会にアピールしています。最近だと、大阪大学の文学部長の卒業式の式辞が文学部の学問の魅力を上手く伝えていると話題になりました。
とても大切だけど効能をすぐには感じ取れない漢方薬のようなリベラル・アーツ。この魅力を高校生や大学生に、もっと感じ取ってもらうにはどうしたらいいのでしょうか。今回、見つけた札幌大学の取り組みは、直接的ではないものの、実はものすごく効果的なのではないかと感じています。
以下、大学プレスセンターより。
札幌大学図書館に山口昌男元学長の仕事場を再現した「ヘルメス」がオープン -- 完成を記念し、今福龍太氏と吉増剛造氏によるトーク・セッションを実施
2017年9月15日(金)、札幌大学図書館2階に「ヘルメス」がオープンする。これは、世界的文化人類学者でもある故山口昌男元学長(以下、山口先生)の知的営為を未来への遺産とする取り組みの一環として、山口先生の自宅の居間を同大図書館内に再現する「札大×山口昌男プロジェクト」のもと整備されたもの。完成に伴い、文化人類学者・今福龍太氏と詩人・吉増剛造氏によるスペシャル・トーク・セッション「ヘルメスの帰還――山口昌男と書物の精神」を開催する。(後略)
札幌大学の取り組みは、世界的に有名な文化人類学者である山口昌男先生の書斎を図書館に再現したというもの。札幌大学のサイトを見てみると、山口先生の書斎らしき写真が載ったチラシがありました。本があふれた本棚に包まれた書斎はいぶし銀のような渋さがあります。
かつては、たくさんの本を読むことや幅広い知識を持つことを、学生たちはある種のステータスだと感じ、競うようにやっていました。教養を身に付けることが、とてもカッコいいことだとされていたのです。実際、大学に入学すると、お手本となる先輩がアチコチにいて、その人たちにあこがれて本を読みはじめる、そんな新入生がたくさんいたのではないでしょうか。私の学生時代は、だいぶ“本読み文化”がなくなっていましたが、それでもこれを感じさせる先輩は何人かいました。
現在、このお手本となる先輩というのが、かなり減ったように感じます。それに知識がたくさんある人より、ビジネスに直結するアイデアや人脈、行動力がある人が注目されるようになってきたように感じます。これ自体は悪いことではないのですが、何となく“知”より“富”に価値が置かれるようになってきたのかな、という感覚があります。
今回の札幌大学に再現された書斎「ヘルメス」は、この最近あまり見かけなくなった教養のカッコよさを、人、ではなくて、場所で強烈に感じさせる取り組みだと、私はとらえています。身近な人の背中で伝えられると一番いいのですが、そういう人があまりいない昨今、知の巨人の書斎という装置を使って、このカッコよさを肌感覚で理解させるというのは、かなりいいと思うのです。
教養が人生にいかに必要かを説いても、18歳には言葉でわかったとしても実感することはほぼできないでしょう。仕方のないことです、若いんだから。それより、教養ってカッコいいんだぞ、という彼らの“今”に直接関わるメッセージの方がよっぽど心を揺さぶるはずです。この書斎は、まさにこれを実践しています。
たとえが古いし、よくないのですが、昔は何となくカッコいいからなんていう理由で、タバコを吸いはじめた若者がいっぱいいました。同じように、カッコいいから教養を身につける、というのも十分アリだと思います。理屈より、まずは格好です。はじめたのなら徐々にその効用についても理解ができるようになる。そうしたら、人文系の先生たちが語る人生に教養がいかに大切かという話も、じわじわと心に滲みるようになっていくのではないでしょうか。
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