「専門職大学」と「専門職短期大学」が2019年4月1日より開校できるようになる、これは高等教育に関わる多くの人が注目しているトピックだと思います。一体この変化は、社会に、業界に、受験生や学生に、どんな影響を与えるのでしょうか。いろいろと気になるのですが、なかでも私が気になるのは、これが“社会人の学び直し”の呼び水になるかどうかです。
以下、リセマムより。
専門職大学が制度化、修了者に学位授与…H31年度スタート
中央教育審議会は、「専門職業人」の養成を目的とする新たな高等教育機関として「専門職大学」「専門職短期大学」の制度を設けることについて適当であると認め、8月23日付で答申した。施行期日は平成31年4月1日。課程修了者には文部科学大臣が定める学位を授与する。(後略)
専門職大学は、名前からもわかるように業界に特化した専門知識と実践的なスキルを身につけられる教育機関です。4年間が前期、後期にわけられており、前期を終えてからいったん社会に出てしばらく働いて、それから後期の学びを受けるなんていう柔軟な学び方も可能になるそうです。さらに科目等履修生制度や長期履修生制度など、社会人が学ぶうえで役立つ制度の整備も予定されています。これらの情報だけでも、専門職大学は社会人にとって学びやすいし、学びがいがある教育機関になりそうな予感がビンビンします。
しかし、専門職大学が、社会人学生を増やす起爆剤になるのか、と聞かれて、間違いなくなる! と即答できるほどの確信は今のところありません。理由は二つあります。
一つは、2004年に創設した法科大学院に似たような期待を感じながらも、うまく機能せずにしぼんでしまった前例があることです。当時はある種のゴールドラッシュで、法科大学院が林立し、たくさんの社会人が入学しました。当時、私も何人か取材をさせてもらいましたが、そのやる気というか、熱気は目を見張るものがありました。
しかし、合格率は想定していたものより大きく下回り、人気は徐々に下落していきました。期待だけが過度にふくれあがり、成果とのズレが生じる、というのは今回も十分起こりうるように思います。
もう一つは、既存の大学とどう差別化していくのかが、わかるようでわからないことです。現在、「実学」を標榜する大学はとても多く、そのほとんどが実践的な学びと手厚いキャリア支援をアピールしています。
専門職大学は、実務家教員による指導と実習を中心にした学びで専門性を磨くようなのですが、めざしているゴールが実学重視の大学とそこまで大きく変わらないように思うのです。また、教員養成系をはじめとした国家試験を念頭に置いた学部学科も、業界をしぼって専門性をトコトン学ぶという意味では同じ。これらとの差別化も今のところ不明瞭です。
これら既存の大学との差をビビッドに表現しないことには、シビアな社会人学生を引きつけることはできないでしょう。おそらくこれは大学単体でどうにかできることではなく、その大学が育成する専門職が働く業界を巻き込んで取り組まないことには、打ち出せないような気がします。
18歳は、大学にいかなくてはいけないからいく、という認識です。しかし、社会人にとって大学進学は自分へのリスキーな投資です。投資は、投資した分以上を回収できる見込みがなくては、やる意味がありません。
専門職大学が、社会人にとって投資する価値のある場所になるなら、大学というものの意味付けを大きく変えるトリガーになるはずです。18歳が減り続ける今、大学業界が発展していくうえで“若者たちの大学”という枠を壊すことは、業界の未来にとって不可欠です。これを専門職大学ができるか、とても興味があります。
一方、既存の実学重視の大学と専門職大学とで差別化がうまくできない場合、互いの個性をつぶしあい、いらぬ混乱を生み出す可能性だってなくはありません。これも期待はしていませんが、関心はあります。
実際、どうなるかはまだまだ未知な状態です。しかし、専門職大学(と専門職短大)の誕生は、半世紀以上前にあった短期大学が誕生したときに並ぶ、大きな変革です。これがどんな結果を生むのか、やっぱり考えれば考えるほどワクワクするわけで、これからも注意深く見ていきたいと思います。
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