2018年という18歳人口が大きく減る分水量を超えたこともあり、大学の再編・統合がかなり現実味を帯びたテーマとなってきました。文部科学省が新たに「大学等連携推進法人(仮称)」をつくれるように制度改革をはじめているのは、まさにこれを象徴する動きのひとつです。非常に興味深い動きではあるのですが、大学の根本に関わる部分にメスを入れようとしているとも言え、慎重に取り組まなくてはいけないことのように思います。
以下、朝日新聞デジタルより。
国公私立大、枠越え新法人 単位など規制緩和案 文科省
文部科学省は27日、国公私立の大学が一緒に法人を作って認可されれば、単位互換などの要件を緩和する制度の創設を、中央教育審議会の部会に示した。現在進めている大学改革の一環で、部会で議論して今秋に予定している中教審の答申に盛り込み、2020年度からの導入を目指す。(後略)
今回、話に挙がっている「大学等連携推進法人(仮称)」は、国公私立関係なく複数の大学集まって、社団法人をつくれるようにするというもの。これをすることで、カリキュラムや教員を“相乗り”することができるようになります。
国立、公立、私立で、国や地方自治体から入ってくるお金が違うわけで、当然、学費も異なります。また、偏差値も大学によって差があり、上位校と下位校では授業の雰囲気や学生の学ぶ姿勢に差があります。相乗りすることで、教育環境が悪くなる可能性だってあるわけです。こういったことを考えると、学生やその保護者から不満の声があがる可能性はかなり高いのではないでしょうか。
そして、何よりも気になるのが、カリキュラムや教員といった教育のコア部分を効率化の名のもとに大学間で共有しだすと、何をもってその大学をその大学たらしめるのか、という各大学のアイデンティティがぼやけだすのではないかと思うのです。
言うまでもなく、大学は高等教育機関です。自分たちの責任のもと人材を育成し、社会に輩出します。その人材の質や専門性が、社会に、また受験生にとって、大学のブランドの担保になります。しかし、いくつかの大学で教育を共有しだすと、その責任の所在はどうなるのでしょうか。場合によっては、偏差値の低いA大学に入ったけど、法人内にある上位校であるB大学の授業を中心にとることで大きく成長した、なんて学生が出てくるかもしれません。
もちろん、大学のアイデンティティは教育だけではなく、建学の理念や積み上げてきた歴史などによるところもあります。でも、教育はこれら理念や歴史と強く結びついているものです。教育の相乗りによってこの結びつきが弱くなることも、アイデンティティが弱まる要因になるように思うのです。
18歳人口が減るから、それに合わせて大学業界が縮小するのは、いいとか悪いとかではなく必然です。それがスムーズにできるように制度改革することも必要です。しかし、規模を適正にすることに目がいきすぎて、大学のもつ個性や、大学業界のもつ多様性がないがしろにしてしまうと、非常に危険だと思うのです。一度、損なわれた個性や多様性をもとに戻すのは、おそらく至難の業でしょう。新法人の議論は、まだまだこれからの段階です。今後どうなるか注意深く見ていきたいと思います。
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