2015/08/21

日本の大学の収益構造を変える、かもしれない挑戦(東京理科大)


2018年を境に18歳人口が急激に減少することもあって、各大学は今後どのように経営を成り立たせていくかに頭を悩ましており、さまざまな施策に取り組んでいます。

これら施策の多くはいかにして受験生を獲得するかに照準が絞られています。もちろんそれは日本の大学、とくに私立大学の経営のかなりの部分が学生の授業料に依存しているからなのですが、この依存状態を変えようと東京理科大学がかなり挑戦的な取り組みをはじめるようです。

以下、朝日新聞デジタルより。

博士課程の学費、全員「タダ」 東京理科大が来年度から 
東京理科大は大学院の博士課程に入った学生が支払う授業料などについて、全額を実質無料にする方針を決めた。来年度から始め、在学生も対象となる。無条件で全学生を「タダ」で受け入れるのは極めて珍しいという。(後略)

東京理科大がこの思い切った取り組みをはじめたのは、「授業料収入に依存しすぎない、米国のマサチューセッツ工科大(MIT)のような経営」をめざすため。記事によるとMITは研究成果をビジネス化することがうまく、授業料の依存度はたった9%しかないそうです(東京理科大は70%)。とはいえ、これだけ手厚い援助を行えば、優秀な人材も集まりそうだし、素晴らしい研究成果を出す人材も出てくるように思います。

MITなどのアメリカの大学は、研究によって資金を集めるほか、卒業生をはじめたくさんの人から寄付を募り、それを運営費に充てています。日本の大学でも近年、寄付の呼びかけを積極的に行う大学が増えてきましたが、アメリカのように運営を支えるほど多額な寄付はどこも集まっていないようです。

しかし、今回の東京理科大のように全力で学生を援助する取り組みをした場合、将来的に寄付をする人・額が大きく増えるのではないかと感じます。というのも、日本でアメリカのように寄付が集まらないのは、個人寄付の文化がないからだとよく言われています。実際たしかにそうで、私自身、募金箱にお金を入れたことはありますが、寄付というものにまったく馴染みがありません。

日本に寄付文化が根付いていない、しかし自分を助けてくれた人に“恩返し”しようという義理人情の文化はかなり深く根付いているように思います。そのため、大学への寄付も、まだ顔も見たことのない後輩を援助しようという考え方より、自分を助けてくれた大学に“恩返し”しようという考え方に立った方が、はるかにスムーズに財布に手が伸びるのではないかと思うのです。

ただしこの場合、大前提として寄付する本人に“大学に恩がある”という実感がないといけません。ですが、学費を払っているうえ、サービスされることに慣れきっているイマドキの学生は、たいがいのことを“してくれて当然”という意識でいます。そんな学生たちに恩を感じさせ、恩返ししたいと思わせるほど、パンチの効いた取り組みってそうそうないのですが、今回に限ってはその可能性があるのではないかと思うのです。

これら援助を受けた学生たちが寄付をするとしても、それは経済的に余裕が出てくる20年、30年先のことです。もちろん全員が全員、寄付できるほど大成しているわけではないし、寄付なんてまっぴらごめんという性格の人もいるでしょう。でも、毎年たゆみなく恩がある人(=援助される人)が増えていけば、いつかは大学への寄付(恩返し)が文化として根付くのかも、と思います。

朝日新聞の記事によると今回の取り組みで必要な予算は、5年で約40億円とかなりの高額です。しかし、何十年かかるかわかりませんが、企業から資金を、卒業生から寄付金を集め、日本の大学の収益構造を大きく変えるきっかけになるかもしれない取り組みです。ぜひとも末永く頑張っていただきたいものです。

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