2018/11/10

研究のプロという、教える素人たちを育て直す(大阪大など)


大学は教育機関と研究機関という二つの側面を持っていますが、受験生が感心を持つのは、もっぱら教育機関としての大学ではないでしょうか。でも、よくよく考えると、大学で教鞭を執る人たちのほとんどは、専門家ではあるけれど、教えるプロ(専門家)ではありません。教育者ではなく研究者。なのに、教えることに期待されるという、このジレンマを少しでも解消しようと、大阪大学などが興味深いプログラムに取り組んでいるようです。

以下、朝日新聞デジタルより。

「大学での教え方」を大学で学ぶ 教員養成プログラム、整備広がる 
大学教員をめざす大学院生らが、教員に必要な心構えや実践的なスキルを学べるプログラムを整備する大学が増えている。教員の資質を高めようとの考えがあるほか、教員の採用試験で模擬授業を課すなどして教育力を評価する動きが広がったことも背景にあるようだ。(後略)

そもそもですが、幼稚園からはじまり、小学校、中学校、高等学校まで、すべて教壇に立つ人たちは、教えることを専門に学び、そのためのライセンス(教員免許)をとった人たちです。なのに、大学のみそういった専門教育を受けた人ではない人が教壇に立っています。これって不思議といえば不思議ですよね。

大学4年間の後半部分にあたる専門教育であったり、大学院の教育であれば、専門性が高く研究者による指導が必要なのかもしれません。でも、学部教育の前半部分にあたる専門の導入部分であれば、内容としてそこまで複雑でないし、できるだけ多くの人にわかりやすく伝えることが望まれるので、研究者としてのスキルより教育者としてのスキルの方が求められるのかなという気がします。

また、近年……といっても10年以上前からですが、受験生はキャンパスライフの楽しさより、学ぶことを重視して志望校を選ぶ傾向が強まっています。これは学問をしっかり学ぶというよりは“成長できる”という、ややあやふやな視点で語られがちなのですが、それでも受験生は真面目に勉強できる環境を探していることに違いありません。

大学は、このニーズに応えられるように教育に力を入れ、教育レベルの高さをアピールしているのですが、多くの場合は教育システムや教育に関連する取り組みによって、これを表現しようとしています。教員の指導力の高さを訴えかけるというのは、あまりないように見受けられるのです。教員をアピールするときは、研究実績であったり、産学連携であったり、研究者としての側面にスポットライトが当たりがちです。

私自身が学生だったころを振り返ると、授業内容がわかるとか、成長を実感できるとか、そういうのって、ほとんど教員のおかげでした。いくら教育的に意義深い取り組みをやっていても、音頭をとる教員が熱心でないと、学生にはまず火がつきません。それなのに、教員の指導力を本格的に育成する取り組みというのは、今回いくつか取り上げられたものの、まだまだ発展途上なのが実情です。

これから先、社会の変化はさらに激しくなり、受験生はその変化に対応できるように、より教育(そして、それによる成長)に興味関心を持つようになるでしょう。それを考えると、教員免許状のような、大学教員向けのライセンスというのは、今後、必要になってくるのではないかなと思います。

こういったライセンスは、学生のためにもなるし、大学にとってもいいアピール材料になります。とくに、大学全入時代に突入している現在、大学とひとことでいっても、その役目も教育内容もかなりの幅があります。私立大学を中心に、研究者育成を第一目的にしていない大学、学部であれば、“教員の指導力の育成と可視化”というのは、すぐにでも考えなくてはいけないテーマです。一大学で何かをはじめるのも素敵ですが、できれば国ないし複数の大学が連携して、業界として大学教員の指導力を保証するライセンス&教育プログラムづくりに取り組んでもらいたいですね。受験生視点で考えるなら、それが一番ありがたいように思います。

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