2017/05/07

大学の階層化は誰がつくり、誰が壊すのか(東大)


子どもの日に新聞をめくっていると、昨年同時期に比べて約17万人も子ども(15歳未満)が減ったという記事がありました。大学広報の仕事を中心にやっている、わたしにとっては気が滅入る内容です。でもその反面、手法や内容は変わるかもしれませんが、今後よりいっそう広報活動に力を入れる大学は増えていくようにも思います(予想というより希望ですが…)。

で、今回、取り上げるテーマは、大学の広報、とくに受験生向け広報についてです。多くの大学にとって、受験生向け広報=自校のPRです。でも、東京大学にとって、受験生向け広報の意味合いは、どうやらそれだけではなさそう。視野がね、やっぱ広いです。

以下、朝日新聞デジタルより。

東大の講義を道内の高校に中継 参加校募集中 
東京大学の教授たちの講義を、道内の高校で聴いてみませんか――。東大教養学部が、インターネットを通じて中継する「高校生のための金曜特別講座」の参加校を募集している。学問の面白さを知ってもらおうと、東大の研究者らが専門分野を分かりやすく解説する。(後略)

わざわざ東大に行かなくても、東大の講義(=一流研究者による講義)を、日ごろ通っている高校で聴けてしまうというのは画期的です。この取り組みの目的は、社会貢献的な意味合いもあると思いますが、主には受験生向けの広報だと思われます。

ほとんどの大学にとって受験生向け広報は、競合大学ではなく自校を選んでもらうための勧誘活動です。競合大学を意識して、伝えるべき情報を慎重に選び、情報発信することになります。自校の勝っている点は容赦なくアピールし、弱みについては切り口を変えて強みに見せる…。ある意味これは戦いであり、“勝利”に関わること以外に力を割く余裕はありません。

しかし、東大の場合、戦う必要もなければ、勝利をもぎとる必要もないわけで、受験生向け広報の目的がそもそも大きく異なるような気がします。では目的は何か? わたしは、さまざまな学問のおもしろさを伝え、大学で何を勉強したいのかを考えるきっかけを提供することのように思います。

今回の記事にある「高校生のための金曜特別講座」もそうですし、以前、本ブログの記事で紹介した東京大学のPVにも似たねらいを感じます。さらに、学問のわくわく感を伝える東大のフリーペーパー『mini ACADEMIC GROOVE』については、冊子のコンセプトが直球でこれです。

何を学びたいのか、そしてそれを学ぶためにはどの大学に行くのがいいのか。学びたい内容によっては、東京大学が最適解ではない場合もあるでしょう。でも、大学進学をする動機として、これはシンプルで力強く、正しいものの一つのように思います。

競合大学に比べて、自校がどうであるかという観点での情報発信は、大学の階層化(偏差値主体の大学選び)を助長させることにつながります。なぜなら、このスタンスで情報発信すること自体、大学には階層や序列があることを暗に伝えているからです。逆にこの階層の頂にいる東京大学は、偏差値ではなく、学びたいことから大学を選ぼうと広報をしている…。皮肉なことかもしれませんが、これは興味深いです。

冒頭に書いたように、子どもたちは、これからえげつないほど減っていきます。大学間での受験生獲得競争は、今後、間違いなく激化していくでしょう。でも、東大的視点というか、多くの人(若者以外も含めて)に大学進学する意味を伝え、学ぶ楽しさや必要性を感じてもらわないことには、業界として衰退していく一方です。これからは勝つことより、協力していくことの方がより大事になっていくのではないでしょうか。

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